帯状疱疹(Herpes Zoster)とは
帯状疱疹は
50歳代から発症率が高くなり
80歳までの約
3人に
1人がかかり、一般内科のクリニックに受診することもまれでない病気であります。
帯状疱疹とは水ぶくれを伴う赤い皮疹が左右どちらかに帯状に出現します。皮疹が出現する2~7日前にピリピリ、ズキズキする前駆痛、知覚異常、掻痒感が70~80%に認められる。皮疹が頭部、顔面に出ると、目や耳の神経が障害され、めまい、耳鳴りなどの合併症、重症化すると視力低下や顔面神経痛など重い後遺症が残ることがあり、専門病院に受診が望ましい。
強い痛みを伴うことが多く、症状は通常3~4週ほど続きますが、一部の方が帯状疱疹後神経痛(
PHN)と呼ばれる痛みが残ることがあり、
50歳以上で帯状疱疹になった方の約
2割が
PNHで悩まされるといわれています。帯状疱疹後神経痛は、
6か月から
1年以上になることもあります。
帯状疱疹の原因
帯状疱疹は、子供のころにかかる「水ぼうそう」のウイルス(水痘帯状疱疹ウイルス)が原因です水ぼうそうに罹った後ウイルスが神経に潜伏します。その後、ストレスや免疫力が下がったことをきっかけに「再活性化」。帯状疱疹として発症します。
帯状疱疹の治療
1)抗ウイルス薬:皮疹発症後72時間以内に抗ウイルス薬(ゾビラックス、バルトレックス、ファムビル)を1週間投与することが勧められている。
2)鎮痛対策:急性期の痛みの緩和は帯状疱疹神経痛への移行を抑制するので、積極的に鎮痛剤を投与する。軽症例はアセトアミノフェンやNSAID。効果不十分の場合はオピオイド(トラムセット)、プレガバリン(リリカ)、三環系抗うつ剤(トリプタノール)を考慮する。痛みの強い高齢者や全身状態不良な方は入院治療する。一部の患者には神経ブロックが有効である。
3)帯状疱疹後神経痛の治療:リリカ、トリプタノール、ノリトレンが主な治療となる。
帯状疱疹を予防するワクチンには、①元来水ぼうそうの予防にも使われている水痘ワクチン
が2016年に帯状疱疹の予防にも認可された「弱毒生水痘ワクチン」と②
2020年新たにに認可された「シングリックス
®」の
2種類があります。
|
弱毒生水痘ワクチン(ビケン®) |
シングリックス ® |
種類 |
生ワクチン |
不活性化ワクチン |
発症予防効果 |
51.3% |
50歳以上で97.2%
70歳以上で91.3~97.9% |
神経痛予防効果 |
66.5% |
50歳以上100%
70歳以上85.5% |
長期予防効果 |
8年~10年で効果消失(5年で50%以下に低下) |
8年後84.0%の有効率 |
副反応 |
局所反応・発熱、水痘様発疹(1-3%)等 |
局所反応・筋肉痛(40%)、疲労(39%)、頭痛(33%)等 |
接種方法・間隔 |
皮下注射(1回) |
筋肉内注射(2回)
1回目注射から2か月後に接種を行う。6か月以内に接種 |
禁忌 |
妊婦、免疫抑制薬服用者、一部の抗生剤にアレルギ-のある方 |
アナフィラキシーのある方、明らかな発熱、、急性疾患の方 |
料金 |
7,500円 |
21,000円 X2 合計42,000円
2~6か月間隔 |
接種対象者 |
50歳以上 |
50歳以上 |
特徴 |
皮下注射1回で済み
安価であるが、相対的に効果が低く・持続が短い
免疫が低下の方は接種できない |
筋肉注射2回接種が必要
値段が高く、副反応が強め
効果が高く・持続が長い
免疫低下している方も接種可能、
|
帯状疱疹ワクチン「弱毒生水痘ワクチン」の特徴
「ビケン」製の帯状疱疹ワクチンは、弱毒化された生きたウイルスが含まれ(生ワクチン)、小児に使用する水痘ワクチンと同じものですが、
2016年から帯状疱疹予防として認可されました。
60歳以上を対象としたアメリカの調査では、同ワクチンにより帯状疱疹の発生率が
51.3%減少、帯状疱疹後神経痛の発生率も
66.5%減りました。帯状疱疹の重症度も
61.1%低下したと報告されています。
しかし長期追跡調査により、弱毒水痘生ワクチンの ワクチン効果は
8 年、疾病負荷に対する効果は
10 年で統計学的に有意な効果が消失することが判明しています。
ワクチン接種による副反応は、打った場所の「局所反応」と全身反応に分かれます。水痘ワクチンに特異的な副反応としては接種後
1-3週間後の発熱や、
2-3%に全身性の水痘様発疹がみられることがあります。
また、以下の方は投与してはいけないことになっているのでご注意ください。
①化学療法やステロイドなど免疫を抑える治療をしている方
②免疫力が落ちている方(
HIV感染)
③妊娠していることが明らかな方
④水痘ワクチンによる強いアレルギー症状(アナフィラキシーなど)を起こしたことがある方
⑤カナマイシン、エリスロマイシンの抗生剤にアレルギー反応を起こした方(ワクチンにこれらの抗生剤の成分が入っています)
なおワクチン接種後
2か月間は妊娠を避けてください。
帯状疱疹ワクチン「シングリックス®」の特徴
「シングリックス
®」は従来のワクチン(弱毒水痘生ワクチン)に比べて帯状疱疹を予防する効果が高いのが特徴です。平均
3.2年間の観察期間中、
50歳以上で
97.2%・
70歳以上で
97.9%の発症予防効果が認められていました。
また、別の試験での
70歳以上の
16,596例の解析によると帯状疱疹に対するワクチン有効率は
91.3%、帯状疱疹後神経痛への有効率は
88.8%であり、帯状疱疹後神経痛
に対しても高い有効性があることが証明されています。
シングリックス
®接種後
7日間に起こった主な副反応としては注射部位の痛み
78% 赤み
38% 腫れ
26%という結果になっています。 全身性の副反応では筋肉痛
40%、疲労
39%、頭痛
33%、悪寒
24%、発熱
18%、胃腸症状
13%です。これは体の中で強い免疫をつくろうとするためといわれており、
7日以内に多くの副反応は弱くなっていきます。
また下記に当てはまる方は接種を行ってはいけません。
①明らかな発熱(通常
37.5℃以上)がある方
②重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな方
③本剤の成分によってアナフィラキシーを呈したことがあることが明らかな方
以下の方は接種に対して「慎重に」投与する方になります。
①心臓血管系疾患、腎臓疾患、肝臓疾患、血液疾患等の基礎疾患がある方
②予防接種で接種後
2日以内に発熱のみられた者及び全身性発疹等のアレルギーを疑う症状を呈したことがある方
③本剤の成分に対して、アレルギーを呈するおそれのある方
④過去に痙攣したことがある方
⑤過去に免疫不全の診断がなされている者及び近親者に先天性免疫不全症の者がいる方
ワクチン接種の間隔
一般成人における各種ワクチン接種の間隔
同じ種類のワクチンの接種を複数回受ける場合、ワクチンごとに決められた間隔を守る必要があります。 詳細は、
国立感染症研究所のホームページを御参照ください。
分類 |
種類 |
次回との接種間隔 |
A:
生ワクチン |
麻疹、風疹、麻疹風疹混合(MR)、水痘(ビケン®)、流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)、BCG(結核) |
①注射A:27日以上
②経口A、注射B:制限なし
③C:*参照 |
B:
不活性化ワクチン |
インフルエンザ、肺炎球菌(13価、23価)、A型・B型肝炎、帯状疱疹ワクチン(シングリックス ®) |
制限なし |
C:
mRNAワクチン |
ファイザ・モデルナ社製コロナワクチン |
* 互いに他のワクチンの2週間後 |
帯状疱疹のお勧めサイト
- Adjuvanted herpes zoster subunit vaccine in older adults Lal H. et al.:
N Engl J Med. 372(22), 2087-2096, 2015
- Efficacy of the Herpes Zoster Subunit Vaccine in Adults 70 Years of Age or Older. Cunningham AL. et al.: N Engl J Med. 375(11), 1019-1032, 2016