睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、睡眠中に何度も呼吸が止まる病気です。この状態が続くと、体が十分な酸素を取り込めなくなり、夜中に何度もトイレに行ったり、朝起きたときに頭痛があったり、日中に強い眠気やだるさ、集中力の低下を感じることがあります。このため、居眠り運転などの事故が増加していることも問題です。
SASを治療せずに放っておくと、高血圧や心筋梗塞、脳梗塞などの重大な病気を発症するリスクが2〜5倍に高まることがわかっています。
治療には、CPAP(シーパップ)という装置で気道を広げる方法や、生活習慣の改善があります。早めに治療を受けることで、これらの病気を予防できます。最近の研究では、SASが心臓病や糖尿病、認知症とも関係していることがわかっており、早期治療がますます重要視されています。
定義:睡眠中に10秒以上の呼吸停止(無呼吸)や呼吸が弱くなる(低呼吸)状態が1時間に5回以上起こる場合、SASと診断されます。
気道が物理的にふさがることで呼吸が止まるタイプです。肥満や加齢、扁桃腺の肥大、顎の形状が原因となることが多く、SASの90%以上を占める最も一般的なタイプです。
脳が正常に呼吸をコントロールできなくなることが原因です。心臓病や脳血管障害が関連し、比較的まれなタイプです。
OSAとCSAが組み合わさったタイプです。
首回りに脂肪が増えることで気道が圧迫され、呼吸が止まりやすくなります。これはOSAによく見られる原因です。
扁桃腺の肥大、下顎の後退や小顎症、鼻中隔の湾曲などが気道を狭くし、無呼吸を引き起こします。日本人は欧米人に比べ、小顎症が多い傾向があります。
年齢を重ねると、筋肉の緊張が低下し、気道がふさがりやすくなります。男性や閉経後の女性は、特にリスクが高くなります。
無呼吸が繰り返されると、血中の酸素が低下し、自律神経が刺激されて血圧が上昇します。
無呼吸によって心筋梗塞や脳卒中、心不全のリスクが大幅に高まります。
無呼吸により酸素不足が生じ、インスリンの働きが悪くなり、2型糖尿病のリスクが上がります。
SASは、うつ病や不安障害、記憶力の低下を引き起こし、生活の質が低下します。
自宅で行うスクリーニング検査です。呼吸センサーと酸素濃度センサーを使用し、睡眠中の無呼吸・低呼吸の回数や血中酸素濃度の低下を測定します。
病院で一晩かけて行う精密検査です。脳波、呼吸、心拍数、筋電図、酸素飽和度、心電図、いびき音、睡眠時の姿勢を記録し、無呼吸の状態を詳しく調べます。在宅で行えるPSGが提供されています。
マスクを装着して空気を送り込み、気道を広げて無呼吸を防ぎます。中等症から重症のSASに非常に効果的です。
マウスピースを装着し、下顎を前方に出して気道を広げ、無呼吸を軽減します。軽症から中等症の患者に適しています。
扁桃腺の摘出や鼻中隔の矯正など、解剖学的な問題が原因の場合、手術を行います。
体重を減らす、禁煙、アルコールを控える、寝る姿勢を改善するなどが推奨されます。
SASの重症度は、AHI(無呼吸低呼吸指数)によって評価され、治療法が選択されます。
重症度 | AHI(1時間当たりの無呼吸・低呼吸回数) | 治療法 |
---|---|---|
正常 | AHI < 5 | 治療の必要なし |
軽症 | 5 ≦ AHI < 15 | 生活習慣改善、寝姿勢の改善 |
中等症 | 15 ≦ AHI < 30 | CPAP、マウスピース、生活習慣改善 |
重症 | AHI ≧ 30 | CPAP、手術 |
CPAP治療により、日中の眠気が大幅に改善し、生活の質が向上します。
高血圧や心筋梗塞、脳卒中などのリスクが減少します。
睡眠の質が向上し、認知機能や気分が改善され、その他の病気のリスクも低下します。
CPAP治療を行うことで、心血管疾患による死亡率が健康な人と同じくらいにまで低下します。
扁桃腺肥大や鼻中隔湾曲など、気道に関する問題がある場合に適しています。
呼吸器の病気や合併症がある場合に推奨されます。
不眠症など他の睡眠障害がある場合や、重症のSASに適しています。
高血圧、糖尿病、心血管疾患のリスクが高い患者には、循環器科での診察が勧められます。
当院は循環器科を専門にしています。ほとんどの患者様に対応できますが、必要に応じて耳鼻咽喉科、歯科、睡眠専門クリニックに紹介をしています。
SASの検査やCPAP治療には保険が適用されます。CPAP治療は、AHIが簡易検査で40回以上、精密検査で20回以上の場合に保険適用となります。
検査費用(3割負担の場合):
CPAP治療を継続するためには、毎月1回の診察が原則です。
CPAP治療は、医師の処方後、機器レンタル会社がCPAP装置を患者に貸し出します。患者は定期的に診察を受け、使用データはレンタル会社や医師に送信されます。装置のメンテナンスや交換はレンタル会社が行いますので、安心して治療を継続できます。
当院はテイジンファーマ、フィリップス・ジャパン、コイケメディカル、CHEST株式会社などと提携し、CPAP機器を提供しています。
A: SASは完全に治るというよりも、治療で症状をコントロールする病気です。CPAPや生活習慣の改善で、無呼吸の発作を抑えることができますが、治療を続けることが重要です。
A: 基本的には、SASの症状を改善するためにCPAP治療は継続が必要です。症状がコントロールされれば、生活の質が大きく向上します。治療をやめると再発する可能性が高いので、医師の指示に従って治療を続けることが重要です。
A: はい、特に肥満が原因でSASが発症している場合、体重を減らすことで気道の圧迫が減り、症状が軽減されることが多いです。生活習慣の改善は治療の重要な一環です。
A: SASは家族歴がある場合、リスクが高まることがあります。遺伝的な要因に加えて、体質や解剖学的な構造も影響します。
A: 簡易検査は自宅で行えますが、精密検査のポリソムノグラフィー(PSG)は病院で一晩かけて行うため、1泊入院が必要な場合があります。最近では在宅でできるPSGもある。
A: CPAP治療自体に大きな副作用はありませんが、マスクの違和感や乾燥感、皮膚のかぶれなどが起こることがあります。これらは装置の調整や使用法の工夫で改善できます。
A: CPAP治療を始めてから数日で日中の眠気や疲労感の改善を感じる人も多いです。ただし、長期間の治療が必要な場合もあり、継続的にフォローアップが必要です。