糖尿病:目次
- 糖尿病とは?
- インスリンの作用
- 糖尿病の分類
- 糖尿病の診断
- 境界型糖尿病
- 糖尿病の治療目標
- 血糖コントロールの指標
- 糖尿病の合併症
- 糖尿病の食事療法
- 糖尿病の運動療法
- 糖尿病の経口薬療法
- 糖尿病の注射薬療法(インスリン・GLP-1受容体作動薬)
- 低血糖およびシックデイ
- 糖尿病のお勧めサイト
1) 糖尿病とは?
糖尿病はインスリンの作用不足に基づく慢性の高血糖状態を主徴とする代謝障害である。
インスリン作用不足の機序には、インスリンの供給不足(絶対的、もしくは相対的分泌不足)とインスリンが作用する臓器(細胞)におけるインスリン感受性の低下(インスリン抵抗性)がある。
糖代謝障害が軽い場合は、自覚症状がなく、長期間放置されることがある。著しい高血糖になると、口渇、多飲、多尿、体重減少が出現する。急速に進行した場合は昏睡、死亡を起こすことがある。
慢性的に高血糖が持続すると、網膜症、腎症、神経障害などの血管障害に伴う合併症が出現する。また全身の動脈硬化が促進され、心筋梗塞、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症などの大血管障害の原因となる。
治療の目標は糖をコントロールし、これらの合併症の予防・進行阻止にある。
2) インスリンの作用
インスリンは膵臓のランゲルハンス島β細胞で生成され、血中のグルコース濃度(血糖値)の調節や、その他の栄養素の貯蓄・利用に関係するホルモンである。
すなわち、食事などにより血中のグルコースやアミノ酸濃度が上がると膵臓のβ細胞からのインスリンの分泌が促進される。分泌されたインスリンは肝臓、筋肉や脂肪組織の細胞に存在するインスリン受容体と結合し、ブドウ糖を細胞内への取り込ませ、細胞のエネルギー源としての利用、グリコーゲンや脂肪としての貯蔵促進などに働く。さらに肝臓におけるグルコースの血中への放出(糖新生)を抑制する。
インスリンが不足するとグルコースの細胞内への取り込みが障害され、細胞内の糖分が欠乏し、血中のグルコース濃度(血糖値)が上昇する。
3) 糖尿病の分類
成因からの分類 (日本糖尿病学会糖尿病学診断基準検討委員会報告参照;一部改変)
分類名 |
特徴 |
1型糖尿病 |
膵β細胞の破壊、通常は絶対的インスリン欠乏に至る
A. 自己免疫性
B. 特発性 |
2型糖尿病 |
インスリン分泌低下を主体とするものと、インスリン抵抗性が主体で、それにインスリンの相対的不足を伴うものなどがある。 |
その他の特定の機序、疾患によるもの |
A. 遺伝因子として遺伝子異常が同定されたもの
@膵β細胞機能にかかわる遺伝子異常
Aインスリン作用の伝達機構にかかわる遺伝子異常
B. 他の疾患、条件に伴うもの
@膵外分泌疾患
A内分泌疾患
B肝疾患
C薬剤や化学物質によるもの
D感染症
E免疫機序によるまれな病態
Fその他の遺伝的症候群で糖尿病を伴うことの多いもの
|
妊娠糖尿病 |
妊娠中に発症あるいは初めて発見された耐糖能異常 |
4) 糖尿病の診断
I)初回検査で以下の1)〜4)のいずれか認めた場合を「糖尿病型」
1)空腹時血糖が126mg/dl以上
2)75gブドウ糖負荷試験の2時間値200mg/dl以上
3)随時血糖が200mg/dl以上
4)HbA1c(国際基準)6.5以上
II)以下の条件を満たした場合を糖尿病と診断する
a)1)〜3)の糖尿病型血糖異常を認めかつHbA1c(国際基準)が6.5以上の場合
b)1)〜3)の糖尿病型血糖異常を認めかつ糖尿病の典型的な症状(口渇、多飲・多尿、体重減少)または確実な糖尿病性網膜症がある場合
c) 再検(1ヶ月以内)で、1)〜3)の血糖異常値が複数回または1)〜3)の血糖異常値と4)のHbA1cの双方とも再検(1ヶ月以内)で、1)〜3)の血糖異常値が複数回または1)〜3)の血糖異常値と4)のHbA1cの双方とも認められた場合
5) 境界型糖尿病
糖尿病の定義境界型糖尿病とは、正常型にも糖尿病型にも属しない血糖値を示す群である。
境界型糖尿病には糖尿病であったものが治療により代謝が改善したもの、糖尿病への移行途中のもの、ストレスなどで正常型から一時的に逸脱もの、メタボリックシンドロームを伴ったものなどが混在している。
WHOでは境界型糖尿病を1)空腹時血糖が110mg/dl以上、126mg未満を空腹時血糖異常(IFG)、2)75g経口ブドウ糖負荷試験(GTT) 2時間値が140mg以上、200mg/dl未満を耐糖能異常(IGT)に分類している。
IGTの中でもOGTT2時間値が高い群(170〜199mg/dl)ほど糖尿病型に進行しやすい。
境界型糖尿病には糖尿病であったものが治療により代謝が改善したもの、糖尿病への移行途中のもの、ストレスなどで正常型から一時的に逸脱もの、メタボリックシンドロームを伴ったものなどが混在している。
WHOでは境界型糖尿病を1)空腹時血糖が110mg/dl以上、126mg未満を空腹時血糖異常(IFG)、2)75g経口ブドウ糖負荷試験(GTT) 2時間値が140mg以上、200mg/dl未満を耐糖能異常(IGT)に分類している。
IGTの中でもOGTT2時間値が高い群(170〜199mg/dl)ほど糖尿病型に進行しやすい。
境界型糖尿病の位置づけ X軸:OGTT2時間値/Y軸空腹時の血糖値 (下記)
6) 糖尿病の治療目標
@ 血糖、体重、血圧、血清脂質の良好なコントロール状態の維持
A 糖尿病細小血管合併症(網膜症、腎症、神経障害および動脈硬化性疾患(冠動脈疾患、脳血管障害、末梢動脈疾患)の発症、進展の阻止
B 健康人と変わらぬない日常生活の質(QOL)の維持、健康人と変わらない寿命の確保
7)糖尿病コントロール指標
@ 細小血管の発症予防や進展の抑制には、HbA1c7.0%未満を目指すように心かける。
A 個々の症例によって、年齢と合併症に応じた適切な治療目標を設定すべき。
B 妊娠中のコントロールは、病態により対応が異なるが、母体や児の合併症予防のために、朝食前血糖70〜100mg/dl未満、食後2時間血糖値120mg/dl未満、HbA1C
6.2%未満を目標とする。
C長期にわたって血糖コントロールが不良の場合には、急速な血糖値の低下により網膜症や神経障害などの合併症が悪化することがあり注意を要する。
D肝・腎障害例、高齢の患者、重症の虚血性心疾患合併で薬剤療法を受けている例では、低血糖を起こさないように、特に薬剤の量および種類に注意する。
血糖コントロール指標(65歳未満)
目標 |
血糖正常化 |
合併症予防 |
治療強化困難 |
HbA1C(%) |
6.0未満 |
7.0未満 |
8.0未満 |
血糖コントロール指標(65歳以上)
|
T |
II |
V |
@認知機能
正常 かつ
AADL自立 |
軽度 |
中等度 |
低血糖危惧薬剤 |
なし |
7.0%未満 |
7.0%
未満 |
8.0%
未満 |
あり |
65歳以上
75歳未満 |
75歳以上 |
8.0%未満
下限7.0% |
8.5%未満
下限7.0% |
7.5%未満
下限6.5% |
8.0%未満
下限7.0% |
※T:カテゴリーI、U:カテゴリーI、、V:カテゴリーIII
※低血糖危惧薬剤:重症低血糖が危惧される薬剤(インスリン製剤、SU剤、グリニド薬など)の使用
※軽度:@軽度認知障害〜軽度認知症かつA手段的ADL低下、基本的ADL自立;中等度:@中等度以上の認知症またはA基本的AFL低下またはB多くの併存疾患や機能障害
8) 糖尿病の合併症
高度のインスリン作用不足によっておころ急性合併症と、長年の高血糖によって起こる慢性合併症がある。何れも患者のQOL、生命予後を悪化させ、それらの発症予防と進展阻止が糖尿病治療の目的である。
T 急性合併症
@ 糖尿病性ケトアシドーシス
A 高血糖高浸透圧症候群
B 感染症
U 慢性合併症
@
糖尿病性網膜症
A
糖尿病性腎症
B
糖尿病性神経症
C
動脈硬化性疾患:
冠動脈疾患、
脳血管障害、
末梢動脈疾患
D 糖尿病性足病変
E 骨病変
F 手病変
G 歯周病
H 認知症
9) 糖尿病の食事療法
ポイントは、@腹八部目とする、A食事の種類をできるだけ多くする、B脂質は控えめにC食物繊維を多く含む食品(野菜、海藻、きのこなど)をとる、D消食、昼食、夕食を規則的正しく、Eゆっくりよく嚊んで食べる
食事療法の進め方
1)適正なエネルギー摂取量の指示
性、年齢、肥満度、身体活動量、血糖値、合併症の有無を考慮し、エネルギー摂取量を決定する。
男性では、1600〜2000kcal、
女性では1400〜1800kcalの範囲内にある。
2)エネルギー摂取量の計算方法:
@エネルギー摂取量(kcal)=
標準体重 X 身体活動量
A標準体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22;
例えば160cmの人では1.6×1.6×22=56.3kg
B身体活動量の目安:
a)軽労働(デスクワークが多い職業など):
25〜30 kcal/kg標準体重
b)中労働(立ち仕事が多い職業など):
30〜35 kcal/kg標準体重
c)重労働(力仕事が多い職業など):
35〜40 kcal/kg標準体重
3)バランスのとれた食品構成
指示された適正なエネルギー摂取量の範囲内で、炭水化物、たんぱく質、脂質のバランスをとり、適量のミネラルやビタミンを摂取する。
適正なエネルギーの50%〜60%は炭水化物から取り、植物繊維の豊富な食物が望ましく、たんぱく質は20%までとし、残りは脂質とするが、25%を>場合は、飽和脂肪酸を減じて脂肪酸組成を配慮する。
標準体
4)食品換算表を参考に配慮する
5)合併症の予防のために
@ アルコール摂取量は適量に留め(1日25gまで)、肝疾患や合併症などのある症例では禁酒。
A 高中性脂肪血症の場合には、飽和脂肪酸、蔗糖・果糖の摂取に注意。
B 高コレステロール血症の場合は、コレステロールを多く含む食品を控える(1日200mg未満)。
C 食物繊維を多く摂取するように努める(1日20g以上)。
D 高血圧合併患者の食塩摂取量は、1日6g未満が推奨される。
E 尿アルブミン排泄量(ACR)300mg/クレアチニン以上あるいは持続的蛋白尿(0.5g/gクレアチニン)があれば(顕性腎症;第3期)、タンパク質制限食を0.8〜1.0g/kg標準体重から開始する。
10) 糖尿病の運動療法
@ 運動の急性効果として、ブドウ糖、脂肪酸の利用が促進され血糖値が低下する。
A 運動の慢性効果として、インスリン抵抗性がかいぜんする。
B エネルギー摂取量と消費量のバランスが改善され、減量効果がある。
C加齢・運動不足による筋萎縮や骨粗しょう症の予防に有効である。
D 高血圧、高脂血症の改善 に有効である。
E 心肺機能を向上する。
F 運動能力を向上する。
G 爽快感、活動気分など日常生活のQOLを高める効果が期待できる。
運動の種類
@ 有酸素運動:酸素の供給に見合った強度の運動で、持続して行うことによりインスリン感受性が増大する。歩行、シ゛ョッキ゛ンク゛、水泳などの全身運動が該当する。
A レジスタンス運動:おもりや抵抗負荷に対して動作を行う運動で、強い負荷強度で行えば無酸素運動に分類されるが、筋肉量を増加し、筋力を増強する効果が期待できる。腹筋、ダンベル、腕立て伏せ、スクワットなどが該当する。
運動の強度
一般的に中等度の強度の有酸素運動が推奨されている。最大酸素摂取量の50%前後を指し、運動時の心拍数でその程度を判断する。50歳未満なら1分間100〜120拍、50歳以降では1分間100拍以内に留める。自覚的患者自身が「楽である」または「ややきつい」体感が目安となる。
運動の頻度と負荷量
@ できれば毎日。少なくとも週に3〜5回、強度が中等度の有酸素運動を20〜60分行い、計150分/週以上の運動と、週に2〜3のレジスタンス運動を同時に行うことも勧められている。
A 歩行運動では、1回15〜30分間、1日2回、1日の運動量として歩行で約1万歩、消費エネルギーとして160〜240kcal程度が適当とされている。
運動療法指導上の注意点
@ 指導前にメディカルチェックが必要である。
A 日常生活のなかの身体活動やスポーツ、レクレーションは運動療法の一部となる。
B 実施は食後1時間頃が望ましいが、特に制限はなく、実施可能の時間帯のいつでもよい。
C インスリン療法やインスリン分泌促進薬治療中の場合は、低血糖になりやすい時間帯があるので注意する。
D 運動誘発性低血糖は運動中や直後だけでなく、終了後十数時間後にも起こりうる。運動量が多いときは補食やインスリンの減量が必要となる。
E 運動強度を増やす場合は、徐々に実行する。
F 準備運動、整備運動を励行する。
G 運動に適した衣服やウォーキングシューズを勧める。
H 寒冷および暑熱環境下の体温調節機能低下に注意する。
I 食事療法を怠ってはいけない。
J 腰椎、下肢関節に整形外科的疾患があるときは、筋力トレーニングなどにより筋力の増量を図るとともに、水中運動、椅子にかけてできる運動や腰痛体操などを勧めるなどの配慮が必要。
K 運動は継続することがたいせつである。
運動の種類と消費エネルギー
@ 運動で消費するエネルギーはそれほど多くない。運動の糖代謝に及ぼす効果は、インスリン感受性の改善が主目的である。
A 食事で過剰摂取したエネルギーを運動量を増やして消費するのは容易ではない。
100kcal消費する運動と時間(体重が60kgの場合)
-
軽い運動 |
軽い散歩 |
30分前後 |
軽い体操 |
30分前後 |
やや強い運動 |
ウォーキン(速歩) |
25分前後 |
自転車(平地) |
20分前後 |
ゴルフ |
20分前後 |
強い運動 |
ジョッギング(強い) |
10分前後 |
自転車(坂道) |
10分前後 |
テニス |
10分前後 |
激しい運動 |
バスケット |
5分前後 |
水泳(クロール) |
5分前後 |
11) 糖尿病の経口薬療法
- @経口薬はインスリン抵抗性改善系、インスリン分泌促進系、糖吸収・排泄調整系の3種類に分けられる。
A患者の病態、合併症、薬剤の作用特性を考慮して薬剤を選択する。食事療法、運動療法でも血糖のコントロールが不十分な時に経口薬療法を開始する。
Bできるだけ低血糖を起こさないように留意する。
C経口薬は少量から開始し、血糖値やHbA1cの値をみながら増量する。特にスルホニル尿素(SU)薬では低血糖時の対応をしっかり指導する。
D血糖コントロールが不安定の場合は、原因の把握に努め、最も適切な薬剤を選択する。
E3ヶ月継続投与しても目標に達しない場合は、他の薬剤との併用を含め、他の治療法を考慮する。
分類 |
種類//
商品 |
作用特性・
特徴 |
注意・
禁忌 |
インスリン抵抗性改善系 |
BG//メトグルコ |
@糖新生抑制A糖吸収抑制Bインスリン感受性改善
C体重増加
|
@乳酸アシドーシス
A禁忌:肝腎心肺機能障害、手術前後、インスリン絶対適応例
Bヨード造影剤投与前
|
TZD//アクトス |
@インスリン抵抗性改善
|
@浮腫、心不全、肝機能障害
A膀胱癌リスクの報告
|
インスリン分泌促進系 |
SU//グリミコロン/アマリール |
@インスリン分泌促進
A短時間で作用発揮。
Bインスリン非依存性例に使用 |
@少量で低血糖、低血糖の遷延(腎障害・高齢者)
A体重増加 |
グリニド//スターシス/シュアポスト |
@インスリン分泌を促進。
A短時間で作用発揮。
B食後高血糖によい |
@1日3回食直前投与。
A肝腎疾患例は慎重投与。 |
DPP-4阻害薬//ジャヌビア/エクア/ネシーナ/トラゼンタ/テネリア |
@DPP-4阻害により活性型GLP-1/GLP濃度を高め、血糖を下げる。
A血糖依存的にインスリン分泌促進、グルカゴン分泌抑制
|
@トラゼンタ、テネリア以外は腎機能障害例で投与量減量
Bエクアは重度肝機能障害例で禁忌。
CSU薬併用時は、SU薬減量(特に65歳以上、Cr1.0mg/dL以上) |
糖吸収・排泄調整系 |
α−GI//グルコバイ/ベイスン/セイブル |
@α−グルコシダーゼを阻害し、糖の吸収を遅らせ、食後高血糖を抑制。
A低血糖の可能性低い。 |
@食直前服用。腹部膨満、放屁,腸閉塞の副作用。
A低血糖に対して、ブドウ糖を経口投与 |
SGLT2I//スーグラ/フォシーガ/カナグル/デベルザ |
@近位尿細管でのブドウ糖再吸収抑制、尿糖排泄促進により血糖低下
A体重低下 |
@腎機能低下例で効果減弱。
A尿路・性器感染に注意。
B1,5AGは検査指標に不適。
C頻尿、多尿、脱水を来す。 |
※BG:ビグアナイト薬、TZD:チアゾリジン薬、SU:スルホニル尿素薬、速効性インスリン分泌促進薬(グリニド薬)、グリニド:速効性インスリン分泌促進薬、α−GI:α−グルコシダーゼ阻害薬、 SALT2I:SGLT2阻害薬
12)糖尿病の注射薬療法(インスリン・GLP-1受容体作動薬)
インスリン療法
健常者のインスリン分泌は、主に肝糖産生を調節し、空腹時血糖を調節する基礎インスリン分泌と食後血糖を制御する追加インスリンからなる。
インスリン療法の適応
インスリン療法の絶対的適応
- @インスリン依存状態
A高血糖性昏睡
B重症の肝障害・腎障害合併例
C重症感染症、外傷、中等度以上の外科手術
D糖尿病合併妊婦
E静脈栄養時の血糖コントロール
インスリン療法の相対的適応
- @インスリン非依存状態でも、著明な高血糖(空腹時血糖250mg/dL以上、随時血糖350mg/dL以上)の場合
A経口糖尿病薬のみで良好な血糖コントロールが得られない場合
Bやせ型で栄養状態が低下している場合
Cステロイヂ治療時の高血糖
D糖毒性を積極的に解除する場合
インスリン療法の実際
- @絶対的適応は入院して導入。相対的適応は外来でも行える。
A1型糖尿病は強化インスリン療法が基本。インスリン注射を中断してはいけない。
Bインスリン投与量の変更は、責任インスリンの増減によって行う。
C血糖コントロールの長期不良例では、急速な血糖下降により網膜症や神経障害が悪化する可能性があるので注意を要する。
強化インスリン療法
- @糖尿病専門医との相談が望ましい。
Aインスリンの頻回注射またはCSII療法に血糖自己測定を併用し、医師の指示に従い、患者が注射量を調節する
B基礎インスリン分泌を中間型または持続型、追加インスリンを即効型または超速効型インスリンで補う。
その他の療法
- @基礎インスリン分泌が保たれている患者では、即効型(または超速効型)インスリンを毎食(直)前3回注射する方法がある。。
A混合型または中間型の1,2回皮下注射、あるいは持続型溶解インスリンの1回注射法がある。
BBOT(Basal Supported Oral Therapy):経口薬のみでは良好な血糖コントロールが得られない場合、持続型溶解インスリンと経口薬の併用がしばしば用いられる。
血糖自己測定(SMBG)
- 家庭で患者が自分で血糖を測定し、インスリンの注射量を決められた範囲内で調節する。
経口血糖口剤治療中の患者のインスリン療法への移行
- @経口糖尿病薬のみでは、十分な血糖コントロールが得られないとき
A肝・腎障害、SU薬の副作用などによりインスリンに変更するとき
B妊娠を前提とするとき
C手術や感染症合併の時
インスリ製剤の種類
- インスリン作用時間による分類
- @超速効型インスリン製剤:作用発現が速く、最大作用時間が短い(約2時間)。食直前の注射で食事による血糖の上昇を抑える。ヒューマログ、ノボラピッド、アピドラなど
A速効型インスリン製剤:作用発現まで30分。最大効果は約2時間。作用持続は約5〜8時間。食前投与で食事による血糖の上昇を抑える。ノロリンR,ヒューマリンRなど
B中間型インスリン製剤:作用発現まで約1〜3時間。作用持続は約5〜8時間。ヒューマリンN,ノボリンNなど
C混合型インスリン製剤:上記を一定の比率で混合する。ノボリン30R,マリン3/7など
D配合溶解インスリン製剤:超速効型と続型溶解型インスリンを混合したもの。ヒューライゾデグ配合
E持続型溶解型インスリン製剤:皮下注射後緩徐に吸収され、作用発現がおそく(約1〜2時間)、ほぼ1日作用が持続する。基礎インスリン分泌を補充し、空腹時血糖値の上昇を抑える。 レベミル、ランタスなど
GLP-1受容体作動薬療法
GLP-1受容体作動客の種類
一般名//商品名 |
注射頻度 |
@ リラグウチド//ピクトーザ皮下注18mg |
1〜2回/日 |
A エキセナチド//ハイエッター皮下注5μgペン300
|
1〜2回/日 |
B リキシセナチド//リキスミア皮下注300μg |
1〜2回/日 |
C エキセナチド//ビデュリオン皮下注用2mg |
週1回 |
D エキセナチド//ビデュリオン皮下注用2mgペン |
週1回 |
E トルリシティー皮下注0.75mgアテオス |
週1回 |
GLP-1受容体作動客の種類作用特性と臨床的特徴
- @膵β細胞膜上のGLP-1受容体に結合し、血糖依存的にインスリン分泌促進作用を発揮する。更にグリカゴン分泌抑制作用も有する。
A胃内容物排出抑制作用があり、空腹時血糖値と食後血糖値の療法を低下させる。
B食欲抑制作用があり、非肥満、肥満例にかかわらず、体重低下作用がある。
C単独使用では低血糖を来す可能性は低い。
GLP-1受容体作動客の使い方と注意点
- @I型糖尿病患者への適応はない。
A副作用として、下痢、便秘、嘔気などの胃腸障害が初期に認められる。
B急性膵炎の報告あり、膵炎の既往のある患者は慎重投与。
Cエキセナチルは、透析を含む重症腎機能障害例では禁忌。
DSU薬またはインスリン製剤との併用時は定期的に血糖を測定する。
Eエキセナチド週1回注射では、注射部位の硬結、掻痒感などが5%以上報告されている。
Fインスリン治療からGLP-1受容体作動薬に切り替え時は、インスリン依存状態でないことを確認してから慎重に行う。
13) 低血糖およびシックデイ
低血糖
- @糖尿病治療中にみられる頻度の高い緊急事態である。
Aスルホニル尿素(SU)薬による低血糖は遷延し易い。
Bブドウ糖あるいはそれに代わるもの(ブドウ糖を沢山含んだ飲料など)を必ず携帯し、低血糖と感じたら我慢しないで、直ちに摂取するように指導する。
低血糖の症状
- @交感神経刺激症状:発簡、不安、動悸、頻脈、手指振戦、顔面蒼白など
A中枢神経症状:血糖値が50mg/dL程度に低下したときに生じる症状。頭痛、目のかすみ、空腹感、眠気(生あくび)などがあり、50mg/dL以下では更に意識レベルの低下、異常行動、けいれんなどが出現し、昏睡に陥る。
低血糖の誘因
- 薬物の種類や量の誤り、食事の遅れ、食事量や炭水化物の摂取が少ない、いつもより強く長い身体活動の最中や運動後、強い運動あるいは長時間運動した日の夜間および翌朝、飲酒、入浴など
低血糖時の対応
- @ブドウ糖(10g)またはブドウ糖を含む飲料(150〜200ml)を摂取させる。ブドウ糖以外の糖類は効果発現が遅い。α-グルコシダーゼ阻害薬服用中の患者は必ずブドウ糖を選択する。
A意識レベルが低下したときは救急対応が必要。
B医師は血糖をチェックし、低血糖が確認できたら50%グルコース注射液20ml(20%グルコースなら40ml)を静脈投与する。
低血糖の再発予防
- @低血糖の原因の特定に努め、治療法の見直しや生活指導をする。
A自動車を運転する患者は必ずブドウ糖を多く含む食品を車内に常備し、低血糖の気配を感じたら、ハザードランプを点滅させ、路肩に寄せて停止し、速やかにブドウ糖を含む食品を摂取する。
シックデイ
- シックデイとは
- @糖尿病患者が治療中に発熱、下痢、嘔吐を来たし、また食欲不振のために食事ができないときをシックデイと呼ぶ。
Aインスリン非依存性の患者で血糖コントロールが良好な場合でも、著しい高血糖が起こったりケトアイドーシスに陥ることがある。インスリン依存状態では更に起こりやすく特別な注意が必要。
- シックデイ対応の原則
- @インスリン治療中の患者は、食事がとれなくても自己判断でインスリン注射を中断してはならない。発熱、消化器症状が強いときは医療機関を受診する。
A十分な水分の摂取により脱水を防ぐように指示する。来院患者には生理食塩水を1〜1.5L/日補給する。
B食欲のないときは消化のよいもの(おかゆ、ジュース、アイスクリームなど)を選び、できるだけ摂取するように指示する(絶食しないように)。特に炭水化物と水の摂取を優先する。
C3〜4時間おきに血糖を測定し、血糖が200mg/dL以上を超えて更に上昇する場合は主治医の指示に基づいて速効性または超速効性インスリンを2〜4単位追加する。
D来院時は必ずケトン体を測定する。
- 入院加療が早急に必要な場合
- @嘔吐、下痢が止まらず食物摂取不能のとき
A高熱が続き、尿ケトン強陽性または血中ケトン体高値(3mM以上)、血糖値が350mg/dL以上のとき
14)糖尿病のお勧めサイト
- 「糖尿病ネットワーク」は、糖尿病患者さんと医療スタッフのための学会案内から健康情報まで広範囲に掲載している。